こども映画図書館

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ハイジ アルプスの物語

Text by Yamoto Rico (矢本理子)

今から40年ほど前、子どもたちの間で絶大な人気を誇った “カルピスこども名作劇場”という番組がありました。これは世界中の児童文学の名作をアニメ化したもので、当時の子どもたちの多くが、毎週、日曜日の夜にはテレビの前に陣取り、「フランダースの犬」、「母を訪ねて三千里」、「あらいぐまラスカル」、「赤毛のアン」といった、このシリーズのアニメーションを見て育ったのです。なかでも人気があった作品は、1974年に放映された「アルプスの少女ハイジ」です。ヤギたちが遊ぶアルプスの風景、丸窓のある屋根裏部屋や干草のベッド、とろりと溶けたチーズがのった黒パンなど、当時の子どもたちにとって、山小屋のハイジの生活は憧れでした。

実は8月26日から、実写版映画『ハイジ アルプスの物語』が、日本で公開されています。

映画公式HP

今回、改めて原作を読んで、この物語が、ハイジや病弱なゼーゼマン家のクララの成長物語であるだけでなく、実は、ハイジのおじいさんであるアルムおんじの改心の物語でもあることに吃驚しました。

ハイジの叔母デーテが5歳の少女を山小屋に連れてきた当初、おんじはぶっきらぼうな態度をとっていました。しかしながら、無邪気で何にでも興味を示す孫娘との生活が始まると、徐々におんじの心も変化し、本来の優しさを取り戻していくのです。しかし数年後、ハイジが再びデーテにより連れ去られてしまったため、おんじは昔よりもさらに頑固になり、人と付き合わなくなってしまいました。一方、いきなりフランクフルトに連れていかれたハイジは、ホームシックから病気になります。ハイジは自分の意見をきちんと言える子ですが、とても優しい性格なので、クララのことを思うと、スイスに帰りたいとは言えないのでした。ついに夢遊病を発症したハイジは、医者のクラッセン先生のアドバイスによって、漸くアルムおんじの元に戻ることが出来ました。

字が読めるようになっていたハイジは、おんじに、自分のお気に入りの「放蕩息子の帰還」という物語を読み聞かせます。これは聖書の有名なお話で、父に我がままを言って財産を分けてもらい、家を出た青年が、苦労を重ねたあげくボロボロの容姿で家に戻ってきた際、父が息子を温かく迎えたという逸話ですが、若い頃に同じような体験をしたアルムおんじは、その晩、独り泣きあかし、神様に許しを請い、翌朝ハイジを連れてふもとのデルフリ村の教会に赴き、何十年かぶりに村人たちと和解するのです。原作のこの場面が、私は一番好きです。

それにしても、ハイジは凄い女の子ですね。周りの人々に光をもたらす太陽のような存在で、アルムおんじやペーターはもとより、ペーターのおばあさん、クララ、クラッセン先生・・・と、彼女と真の交流を築いた人々の人生を、その後、すっかり変えてしまうのですから。

さて、映画版の「ハイジ」ですが、こちらは原作にとても忠実に作られています。ハイジやペーター役の子どもたちは、映画は初出演のようですが、素朴で生き生きとしていて、素晴らしい演技を披露していますし、アルムおんじを演じたブルーノ・ガンツもはまり役で、驚きました。美しいアルプスの山々の風景も堪能できる、ファミリー向けの良質なエンターテイメント作品だと思います。この夏を締めくくる1本として、ぜひお薦めします。

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