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© 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH  9/16公開「50年後のボクたちは」

こどものための「映画的家出のすすめ」

森直人(映画評論家)

「自立に至るステップとして『反抗』が、まず生まれてくる」――日本を代表する心理学者・河合隼雄(1928~2007)は名著『子どもと悪』の中でそう書いています。まだ未分化な感情を持てあましている子どもにとって、「反抗」とは「大人の言うとおりに生きているのではないぞ」という表現なのだと。いまや「大人」になった我々は、なかなか「言うとおり」に動かないウチの子どもにイラ立ってしまうわけですが、しかし「元・子ども」の気持ちにスーッと戻してみると、誰もが小さな頃に必死で行っていた「反抗」の意味に思い当たるはずでしょう。

そうなると、家出という行為は、「自立に至るステップ」としての反抗の象徴、最も自主的な荒療治と言えるかもしれません。それは親の「保護=支配」から逃れた自力でのサバイバル、自分の目で世界を発見する「旅」になります。また先の著書で河合は「悪がポジティブに変容するとき、そこに重要な他者がからんでくる」とも書きます。ほとんどの場合、「重要な他者」とは友だちです。同年代の少年少女たちが互いに助け合って未知の世界に飛び出す姿を、数々の映画は現代のイニシエーション(通過儀礼)としていきいきと描き続けてきました。
これから紹介する家出映画は、もちろん「よい子」の物語ではありません。ただ、成長するってことに関して本当に必要な養分となる「旅」の大切さを、楽しく教えてくれるはずです。

男の子ふたりなら~『50年後のボクたちは』
(2016年/ドイツ)

まずは新作から。2013年に48歳で早世したドイツの作家、ヴォルフガング・ヘルンドルフのベストセラー小説『14歳、ぼくらの疾走』の映画化。両親は不仲で、学校にもなじめない主人公マイクが、風変わりな転校生チックと共に、ボロ車に乗ってひと夏の旅に出るお話。いわゆる「中二病」と呼ばれる、自意識過剰な思春期男子ふたりの通過儀礼を描く王道ロードムービー。昨年公開されたフランス映画『グッバイ、サマー』(こちらも超おすすめの傑作)もほぼ同じ枠組みを使っていましたが、この種の源流のひとつはヘルマン・ヘッセでしょう。『車輪の下』から連なる「クラスのはみ出し者」の反抗と自由の物語は、スクールカーストという抑圧的な価値観に苛まれる子どもにとって、家庭とも学校とも違う「もうひとつの世界」への扉を開けてくれるものです。

女の子ふたりなら~『ユキとニナ』
(2009年/フランス・日本)
主人公はパリに住む9歳の少女ふたり。ユキとニナは、共に両親の離婚という問題を抱えています。特に日本人の母と、フランス人の父を持つユキは、両親が別れて暮らすことを選択する危機に今まさしく直面しているところ。そこでユキは、母親と喧嘩してきたばかりのニナと一緒に、両親を仲直りさせるために家出を決行します。これは子どもたちの「異議申し立て」。ところが郊外にある不思議な森に迷い込んだふたりは、子どもたちだけの世界の中で「心の旅」を経験します。日仏というふたつの国をめぐる文化、生活、アイデンティティの問題を扱いながら、社会のコードから一旦離れ、子どもたちが純粋に自分なりの思考を働かせる抽象空間に誘っていくところが、この映画の独特の魅力となっています。日本の諏訪敦彦と、フランスのイポリット・ジラルド(本業は俳優)の共同監督作。

仲間と一緒なら~『ドラえもん 新・のび太の日本誕生』
(2016年/日本)
1980年の名作『のび太の恐竜』から始まる映画版の長編『ドラえもん』は、まさに親や学校の「保護=支配」から逃れ、友だち同士の「旅」を描く世界最良のシリーズと言えるものです。その中の第36作『新・のび太の日本誕生』(第10作『のび太の日本誕生』のリメイク)は、のび太をはじめ、おなじみ仲間の面々みんなが家庭内のトラブルから実際に「家出」を決意して、七万年前の日本および中国大陸にタイムトラベルする展開。とはいえ、このシリーズは毎回「親に内緒で長期間家をあける」わけですから、総体として「家出」的なフォーマットが基本だと考えていいと思います。このワクワクドキドキの冒険旅行では、子どもたちのいつもとは違う良い面が発揮されるのが特徴。普段は気弱でだらしないのび太も、優しくて意外に勇敢なところが前面化しますし、乱暴ないじめっ子のジャイアンは頼もしい男気のある少年になる。「家出映画」の最適の入門編と言える長編『ドラえもん』シリーズは、大人をリアルな子どもの気持ちに戻してくれる、童心のための優れた処方箋でもあります。

駆け落ちするなら~『リトル・ロマンス』
(1979年/アメリカ)
『小さな恋のメロディ』(1971年/イギリス)と並んで、少年少女の恋心を描いた映画のクラシックと言える名作です。パリ郊外に暮らす映画好きの少年ダニエルと、セレブ育ちのアメリカ人少女ローレン(撮影当時13歳、公開当時14歳のダイアン・レイン。これが映画デビュー作)の出会い。ふたりは共に哲学者ハイデッガーの著作なんかを読みこなしている天才児。彼らはローレンの引っ越しで離ればなれになってしまう前に、永遠の愛を誓うため、国境を越えてヴェネチアにある「ため息の橋」を目指します。「子どもは子どもらしく」のコードから外れた、いわゆる「おませ」な少年少女による『ロミオとジュリエット』型のラブロマンス。そこに奇妙な守護神として、名優ローレンス・オリヴィエ扮するワケありの老人が絡んでくるのがポイント。一般的なモラルに囚われない人間観を打ち出しているのも秀逸ですし、大人の欺瞞(特にローレンの母親)に向ける視線はかなり辛辣で皮肉なものを感じます。ちなみに劇中の映画館で上映されている『明日に向って撃て!』(冒頭)や『スティング』(終盤)といったジョージ・ロイ・ヒル監督のセルフオマージュ(要は楽屋落ち)も楽しいです。

ひとりの時は~『かいじゅうたちのいるところ』
(2009年/アメリカ)
子どもが家出を決意した時、そこに友だちがいるとは限りません。この映画は孤独な少年が「ひとりぼっち」で家を飛び出し、不思議な回路でひとつの精神的な成長に踏み出していく姿を描きます。原作は世界中でロングセラーを続けるモーリス・センダックの名作絵本で、それを奇才スパイク・ジョーンズ監督が「現代っ子」の解釈で映画化したもの。主人公の少年マックスのお母さんは離婚したシングルマザーで、いまは新しい恋人に夢中。お姉ちゃんも弟には無関心。そんな鬱屈した日常から、マックスはかいじゅうたちのいる島という異世界へ旅立ちます。もちろんそれはイマジネーションの冒険。ままならない現実に対し、頭の中、心の中で自由な想像力を思いっきり羽ばたかせること。これもまた子どもの自立心を育てる立派な「旅」と言えるのではないでしょうか。

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