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©2015 GABLES PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED.「赤毛のアン」5月6日公開

こども映画図書館 「赤毛のアン」

Text by Yamoto Rico 矢本理子

にんじんのように真っ赤な髪の毛をおさげにした、ソバカスだらけの、痩せっぽちの女の子。それがこの物語の主人公アン・シャーリーです。一度この描写を読むと、その容姿を忘れることは出来ませんよね。いまやカナダを代表する児童文学である『赤毛のアン』が、約30年ぶりに新たに映画化され、まもなく日本でも公開されます。

日本で『赤毛のアン』が出版されたのは1952年のことでした。以来、アンは多くの読者を魅了し、今でも幅広い年齢層の女性たちに愛されています。2014年には、日本で初めてこの本を翻訳した村岡花子さんを描いたドラマ「花子とアン」がNHKの連続テレビ小説で放送されたことは、記憶に新しいと思います。一説によると、これまでに世界中で5000万部発行された『赤毛のアン』のうち、1500万部が日本で売れたのだそうです。

私が『赤毛のアン』を初めて読んだのは小学生の時で、ちょうど高畑勲さんが演出したアニメーションの「赤毛のアン」が放送されていた頃です。今回、原作本を久しぶりに読んでみたところ、様々な気づきがありました。そしていまや自分が、主人公のアンよりも、むしろマリラの心情に寄り添っていることに、途中で気がつきました。先ずは、アンの個性的なキャラクターに驚いたのです。普通の人よりもはるかに空想癖が強く、のべつ幕なしにお喋りしているアンのような女の子が、突如現われたら、厳格なマリラじゃなくても吃驚すると思います。なにせアンは、“グリーン・ゲイブルス(緑の切妻屋根)”に来たばかりの頃は、次から次へとトラブルを巻きおこしていたのですから。

また、本来望んでいた男の子ではなく、女の子のアンを養子として受け入れることにしたマシュウとマリラの包容力にも感心しました。それまで子育ての経験がなかったマリラは、当初は、移り気なアンのしつけに苦労したことでしょう。綺麗好きで料理上手な、完璧な農家の主婦であるマリラは、厳しい面もありますが、実は内心、ユーモアを解する心があります。原作ファンの方々には、最初からアンの全てを受け入れたマシュウの優しさが印象に残っていると思いますが、今回、私は、マリラのアンに対する愛情の深さに気がつきました。

アンの性質を理解し、自分たちが居なくなった後も、自立して生きることができる女性に育てなければならないという責任感から、あんな風に、時に小言を言うのだな、ということが解ったのです。『赤毛のアン』が世代から世代へと、長年、日本の女性たちに支持されてきた理由は、この本の普遍性にあるのでしょう。子ども時代はアンの目線で読んでいた読者が、ひとたび大人になり、または親の立場になると、今度はマリラの目線でこの物語をとらえるようになるのです。

さて、映画版の「赤毛のアン」ですが、一つだけ原作と大きく異なる点があるのですが、ほぼ原作にそった内容で、アンが次々と巻きおこす可笑しなエピソードが、コンパクトにまとめられています。アン役のエラ・バレンタインの自然な演技も可愛らしいですが、意外や、マーティン・シーンがマシュウ役を好演しています。でも、なんと言っても素晴らしいのは、物語の舞台でありロケ地であるプリンス・エドワード島の風景です。“グリーン・ゲイブルス”や、“歓喜の白路”、“輝く湖水”といった原作に登場する美しい景色を、四季折々、楽しむことができます。

この本が最初にカナダで出版されたのが1908年だったことを考えると、今から約100年前と変わらぬ風景が、現地では保たれていることになりますね。また、前回ご紹介した「大草原の小さな家」にも通じる、あの時代のカナダの農家の人々の、質素ですが手作り感覚にあふれる豊かな生活ぶりも、堪能することができます。子どもの頃に『赤毛のアン』を読んだ方々には懐かしく、また今回、初めてこの物語を知る方々にも楽しんでいただける、良質なエンターテイメント作品です。

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