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「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」
監督インタビュー

撮影当時、実際にみんな4歳という元気な子どもたちが登場するドイツ映画です。舞台はドイツのど真ん中に位置するボラースドルフ。田園風景の広がる、穏やかで平和な村に、ある日、消費者調査会社が「この村は世界一平均的だから、ちょうどいい」と新商品のマーケット・リサーチを行うモニター村に選んでしまい、騒がしい人たちが次々と新商品を持ってやってくるように。素直に喜ぶ大人たち。でも、平均的でないお年寄りや子どもたちは、大人たちが押し付けるフツーの価値観によってどんどん窮屈になっていきます。そこで立ち上がるのが元気いっぱいの6人の4歳児たち。「フツーの村」脱却のため、とっても愉快なことを思いつくのですが……。

ドイツと言えば、エーリッヒ・ケストナーの原作を映画化した『点子ちゃんとアントン』(01)、『飛ぶ教室』(03)などがありますが、製作、監督を務めたファイト・ヘルマーは2010年代になってヨーロッパでは実写の子ども映画がほとんど作られなくなったと訴えます。オリジナルで新たな子ども映画を作ったわけを聞きました。


本作に出てくる子どもたちはみんなとっても活動的で、それぞれ、大好きな得意分野を持っています。日本では学校でなにかひとつだけ突出した才能を伸ばすというより、まんべんなく、全ての教科が出来るよう求められるので、とても面白く見ました。

「それは日本だけの現象ではないような気がしますね。ドイツでも、子どもがひとりでおとなしく過ごせるように、ある意味、大人に強制されて育てられるようなところがあります。でも、子どもって本来は一人で静かに座っていられる生き物じゃないんです。元気があふれ、いろいろ動いたり、走りだしたりするものです。ところがドイツの教育では、あまりにも元気がよすぎると、多動性障害じゃないかと言われ、小さい時から薬を飲まされ、落ち着くことを強いられる子どももいます。でも、本当は思う存分、騒いで、自分を出せる場所があれば解決する問題だったりします」

この映画で楽しいのは、子どもたちの秘密基地がものすごく高いクレーン車の上にあって、高所恐怖症の人が見るとめまいがするような場所に平気でいるような設定になっているところです。この場面だけで、目くじら立てて怒る大人もいるかもしれません(笑)。監督が敢えて、こういう設定を選んだのはなぜですか?

「子どもは映画を見ながら、冒険をしているからです。1960年代から70年代、ヨーロッパや日本で大人気だったテレビシリーズ「長くつ下のピッピ」には、ピッピが機関車の上に乗って踊ったりするシーンがありますよね。あのシリーズを見ていた子どもは世界中にたくさんいたと思いますが、ピッピのように機関車によじ登った子どもはほぼいなかったと思います。私の子どもは「世界でいちばんのイチゴミルクの使い方」をもう20回は見ていますが、未だに鉄塔に登ったり、クレーンに登ったりしたことは一度もありません(笑)。子どもだって、現実と映画は違うことはわかっているからです。だからこそ、実社会ではトライできないことを、映画の中で描くことは大切なんです」


子どもたちの演技がとっても愛らしくて、もうエネルギーにあふれているんですけど、監督はどうやって演技指導をされたんでしょう?

「実は私は、それぞれの子どもたちに、『OK,君はこういう役だからね』なんて話をしていません。そんなことを話しても、子どもたちは演技しながら遊んでしまい、言われたことを忘れてしまいますからね。その代わり役柄通り、強い個性を持った子どもを選びました。私の息子はいろんなアイディアを持っている子ですが、とってもおとなしいので、彼が見て楽しめるようにと、この映画を作りました」

子育てをするお父さんとして、監督から見て、ドイツの教育はどういうところがよいところで、どういう欠点があると思いますか?

「いろんな考えの人がいると思います。まずは社会や学校のルールに適応することが大事だと思っている教師や親もいますし、逆に、子どもの個性を育てることが一番だという大人もいます。私自身は、子どもは独立した個人だと思うようにしていますが、ときに、子どもは自分の分身で、自分がなし得なかった夢を背負わすものだと思っている親に出合うこともあります。その子が、何を考え、どうしたいのかに目がいかないことはとても悲しいこと、この映画でも、モニターに夢中になる親たちがそういう状況に陥っています」


子どもたちを助ける存在として本物のアカハナグマが出てきます。手先が器用でびっくりしましたが、どうやって演出したんですか?

「脚本を書いている時に、アカハナグマを調教している訓練所の存在を知りました。そこで、アカハナグマが出来ることを聞いて、その能力に合わせて脚本を書き上げたんです。映画の中で、アカハナグマはカッターを持って鉄塔を登ったり、薬屋さんで睡眠薬の箱をそっと盗み出したりしますが、あれは本当にやっていること。CGじゃありません! ただ、クライマックスで、金属のワイヤーをカッターで切る場面があるのですが、実際に切ると、火花が散って危険なので、そこだけアカハナグマにそっくりな腕を作りました。ドイツでは器用なことを『右手が2本ある』というのですが、アカハナグマはまさに2本の右手を持っていて、私が三本目の手を演じたわけです。アカハナグマでひとつ困ったのはイチゴが大好きで、本物を用意するとあっという間に食べちゃうので、イチゴミルクを作る場面では、よくできた偽物のイチゴを使いました」

最後に日本の観客へメッセージをお願いします。

「この作品の子どもたちは、『世界的、平均的な街』の称号を打ち破るために、敢えて世界一の記録に挑もうとします。私も今、世界一に挑戦中です。主役の子ども全員がリアルに4歳児という映画は、なかなかないのではないでしょうか。それを証明して世界一の映画にしたいと思っています。また、今の時代にこのような子ども映画を撮ったことにも意味があります。現在ヨーロッパでは実写の子ども映画は、ほぼ絶滅の危機にあり、アニメーションは作られても、本物の子どもが出て、冒険するような映画は作られなくなってしまいました。小さな子どもたちが見て、感情移入できる実写映画が作られなくなっているのはよくないことです。その意味でも、この映画を親子で楽しんでもらえたらなと思います」

世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方
2月11日(土・祝)より109シネマズ二子玉川ほか全国ロードショー
配給 エデン+ポニーキャニオン
ⓒVeit Helmer Film-produktion

http://www.sekaideichiban.com/

(聞き手・文:金原由佳)

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